猫の寿命が30歳まで伸びる!?【第1回】腎臓病治療薬の実用化間近!開発者 宮崎先生インタビュー

猫の寿命が30歳まで伸びる!?【第1回】腎臓病治療薬の実用化間近!開発者 宮崎先生インタビュー
猫の寿命が30歳まで伸びる!そんな夢のような話が、腎臓病を治す薬の開発によって実現しようとしています。
そこで猫の腎臓病薬を開発中の宮崎徹先生に、詳しくお話を伺いました。
実用化間近の猫の腎臓病治療薬について、全3回でお伝えします!

インタビュー・記事の監修:宮崎徹 先生
1986年東京大学医学部医学科卒、医学部附属病院第三内科に入局。熊本大学大学院を経て、92年よりパスツール大学(仏ストラスブール)研究員、95年よりバーゼル免疫学研究所(スイス)主任研究員、2000年よりテキサス大学(米ダラス)にて免疫学准教授、06年より22年まで東京大学大学院医学系研究科教授を歴任。
22年4月より一般社団法人AIM医学研究所代表理事・所長。1999年に発見した血中タンパク質AIMを、腎臓病を始めとする多くの難治疾患に対する新しい治療法として創薬を推進している。また、猫では先天的にAIMが機能不全であることが腎臓病が多発する原因であることも見出し、AIM動物薬も開発中である一方、猫のAIMを活性化する方法を開発し、ペットフードに応用している。
一般社団法人AIM医学研究所 代表理事・所長)

猫に多い病気「腎臓病」

腎臓病は猫に多い病気のひとつと言われていて、15歳までの約4割が、15歳以上の約8割が慢性腎臓病だというデータもあります。(※)

猫の慢性腎臓病有病率グラフ

※出典:Marino, Christina L., et al. “Prevalence and classification of chronic kidney disease in cats randomly selected from four age groups and in cats recruited for degenerative joint disease studies.” Journal of feline medicine and surgery 16.6 (2014): 465-472.

気づいた時には重症化している腎臓病

腎臓は血液から尿を作り老廃物の排泄をしています。こうして体内の水分量を調整する他、血圧の調節や、血液中のナトリウムやカリウムなどのイオンバランスの維持を行っています。

その腎臓が正常に機能しなくなる状態を「腎不全」と呼び、その原因となるのが「腎臓病」です。

初期の段階では目立った症状は見られず、気づいたときには進行してしまっているのが腎臓病の恐ろしいところです。

腎臓病は症状の軽い順にステージ1~4に分けられます。ステージ2までは症状がほとんど出ないため異常に気づけず、「尿毒症(有害物質が体内に溜まっている状態)」になり始めるステージ3で発見されることが多いです。

段階 症状や状態
ステージ1 症状は見られず、血液検査などでも見つけることが難しい状態
ステージ2 多飲多尿が見られるが、食欲も変わらず元気に過ごす
ステージ3 「尿毒症」になり始め、食欲の低下や、嘔吐を繰り返す
ステージ4 重篤の状態。生命維持が困難になり、死に至る

腎臓病は治すことができない病気

一度壊れてしまった腎臓の組織は元に戻すことができないため、腎臓病は治すことができない病気と言われています。
残っている腎臓を長持ちさせることを目的に、投薬や点滴などによって腎機能のはたらきを促す治療が一般的です。

猫に腎臓病が多い理由は「AIM」にあると解明!

今回ご紹介する宮崎徹先生が、世界で初めて猫に腎臓病が多い理由を解明しました!
宮崎先生が発見した血液中のたんぱく質である「AIM」が、猫の体内では働いていないことが分かったのです。

猫に腎臓病が多い理由

ゴミ掃除をお手伝いするAIM

AIMは普段はIgM(免疫グロブリンM)と結合し、血中を漂っています。
IgMと一緒にいるAIM

そして体内に老廃物などのゴミが発生すると、AIMはIgMから分離してゴミにくっつくことで、目印の役割を果たします。

体内のゴミを発見して飛んでいくAIM

その目印がついているものを免疫細胞のマクロファージが食べて、体内がきれいになるという仕組みです。

ゴミにくっついて目印になるAIM

猫はAIMがIgMから離れない

腎臓では血液をろ過して老廃物を尿として排出しますが、その時に死んだ細胞が尿細管に詰まってしまうことがあります。この死んだ細胞にAIMがくっついて目印となることで、マクロファージが食べて詰まりが解消されます。

けれども宮崎先生の研究で、ネコ科の動物では腎臓にゴミが溜まってきても、血中にあるAIMがIgMから切り離されないということがわかりました。

猫の体内で活性化しないAIM

AIMがゴミの目印にならないため、マクロファージがゴミを食べてくれません。

AIMが不活性のため活動しないマクロファージ

そのため猫は腎臓にゴミが溜まり続けてしまい、腎機能がどんどん低下してしまいます。その結果、多くの猫が腎臓病で命を落としてしまうということがわかったのです。

猫の腎臓病が治せたら、寿命が30歳まで伸びる!?

「猫に腎臓病が多いのは、AIMがIgMから離れないせい」ならば、最初からIgMとつながっていないAIMを入れてあげればいい。
これが宮崎先生が現在開発中の猫の腎臓病治療薬の仕組みです。

外からAIMを入れる

冒頭でご紹介したように、腎臓病は猫にとても多い病気。腎臓病のために亡くなる猫も少なくありませんし、直接の死因は他の病気でも慢性腎臓病も併発していることもあります。健康な腎臓を持っていたらずっと長生きできるようになるでしょう。

現在、猫の平均寿命は15.62歳(※)。腎臓病治療薬が実用化されたら、2倍の30歳まで生きる日も来るかもしれません!

一般社団法人ペットフード協会「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」より

猫の腎臓病の治療薬を開発中の宮崎徹先生インタビュー

ここからは宮崎先生にAIMや猫の腎臓病治療薬、腎臓病予防の物質について詳しくお話を伺っていきます!

気になる実用化の時期は?

──猫の飼い主にとって救世主であるAIMですが、治療薬の実用化はいつ頃になりそうでしょうか?

宮崎徹先生(以下、宮崎):申請後の審査がどのくらい早く進むかによるかと思います。

慢性腎臓病は10~15年という長い時間をかけて進行する病気ですから、治験を行う病気のステージによっては、治験自体もとても長くかかります。
私たちは、短い時間ではっきりとした効果が確認できるステージを見出し、そのステージでの効果は既に確かめてあります。

──すでに一定の進行度の猫では治験を終え、AIMに効き目があるという結果も出ているんですね!

宮崎:はい。薬の開発では、ハッキリいつとお約束することは困難ですが、可能な限り早く実用化させる所存です。

──実用化に向けて着実に進んでいると分かって、喜ばれる飼い主さんがたくさんいらっしゃると思います!

実際、試験投与の結果は目を見張るものがあります。腎不全の末期状態だった高齢猫では、AIM投与により起き上がって歩き回り、自力で食事をとることもできるようになったそう。
この奇跡のような事実について、詳しくは先生の著書『猫が30歳まで生きる日』をご覧ください。

喜ぶ猫と飼い主

実は人間のお医者さん!

猫の腎臓病薬を開発している宮崎先生ですが、実は獣医師ではなく人間のお医者さまです。

東京大学の医学部を卒業後、2年の研修医期間を経て東大病院の消化器内科で勤務していた宮崎先生。慢性で深刻化した病状の患者さんが多く「治せない病気」と向き合う日々の中、「治せない」のは病気の発生や進行の仕組み自体が解明されていないことが大きな原因のひとつだと気づいたそうです。

透析マシン

そういった病気に対する”根本的な治療法”を開発したいという思いから研究者になり、免疫学の研究を進めているうちに、免疫に関わる未知の血中タンパク質に辿り着きました。

先生はそれを『AIM』と名付けて働きを研究。並行して2013年から猫のAIM研究も開始されます。

──人間のお医者さまである宮崎先生が、『猫』の腎臓病に着目されたのはなぜですか?

宮崎:AIMと腎臓病の関係を研究していた時期に、たまたま獣医の先生から猫はほぼ全員が腎臓病になると聞いて、恐らくAIMが働いていないのだろうと考えたのがきっかけです。

──きっかけは偶然なんですね。けれども聞き流すことなく猫のAIMについて調べられ、猫の腎臓病薬の開発に踏み切られた。

宮崎:調べてみるとその通りで、猫は先天的にAIMが機能不全の状態であることが分かりました。

そうであれば、機能するAIMを補充することで腎臓病は抑えることが出来るはずだと考えたんです。

──種を超えて研究されることに躊躇などはありませんでしたか?

宮崎:人間の患者も猫の患者も、腎臓病という治らない病気で苦しんでいることには変わりありません。

私は、元々治らない病気を治すために研究しているのですから、猫の腎臓病薬を開発することに何の抵抗も不自然さも感じませんでした。

もし、犬がそうであれば犬のAIMを研究したと思います。人を含め多くの動物のなかで、ほとんど全員が腎臓病になるのは、猫と猫科の大動物だけです。

ライオンの親子

──体内のAIMという物質とその働きを発見しただけでなく、猫と猫科の大動物だけが腎臓病になる原因がAIMの機能不全状態であったと発見された。あらためて先生の研究の偉大さを感じます。

体内に元々あるAIMを活性化させる成分も発見!

──先生はさらに、体内に元々あるAIMを活性化させる方法も発見されたそうですね。

宮崎:5年以上前にあるサプリの開発会社との共同研究で、定期的にAIMをIgMから強制的に外す研究を始めました。まだ病気にはならない程度の少量のゴミも、定期的に掃除すると色々な病気の予防になるのではないかと考え、AIMをIgMから外す成分の探索を行い、3年前くらいにやっといい成分が見つかりました。

──人間の体内で、AIMをIgMから強制的に外して働かせるようになったんですね。

宮崎:一緒にその成分を見つけた会社はもちろん人間用のサプリの開発を進めていますが、これを猫に与えたら、猫のAIMも少しはIgMから外れてゴミを掃除できるようになるのではないだろうかと考えテストしたところ、人間ほどではないですが猫のAIMも外すことが出来ました。

──猫のAIMも強制的に外して働かせることができたんですね!人間ほどではなくとも、猫のAIMも多少外すことができるということは、健康な腎臓の少しのゴミなら蓄積される前に片付けられますね。

宮崎:はい。そこでAIMをIgMから外し活性化させる成分を配合したペットフードを開発して欲しいとペットフード会社にお願いしました。
開発は順調に進み、2022年3月にドライキャットフードとして販売が開始されました。

ドライフードを食べる猫

──フードに配合されていれば、手軽に毎日摂取することができますね♪反響などはありましたか?

宮崎:既にたくさんのユーザーから、「このフードを与えてから腎臓の数値が良くなった」とか、「元気になった」、「毛並みが良くなった」、「食欲が増した」などのご報告をいただいています。

今後このフードの効果を体系的に調査していければと考えています。

──治療薬と並行して、予防も進化させていくんですね。
そもそも猫が腎臓病にならない、もしなっても治せる薬があるという状況になる日が本当に待ち遠しいです!

宮崎先生のインタビューは全3回にわたってお送りします!
第2回では猫の腎臓病治療薬の研究・開発とコロナ禍による壁、そしてその壁を打ち破った愛猫家たちの熱い想いについてのエピソードをお送りします。

※第2回は10月27日(金)公開予定!お楽しみに♪

宮崎徹先生の著書『猫が30歳まで生きる日』好評発売中!
先生の研究の歴史やAIMの発見と働きの解明、猫の腎臓病薬開発のことなどが、分かりやすく解説されています。
とても読みやすい書籍なので、ぜひチェックしてください♪

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