猫の寿命が30歳まで伸びる!?【第2回】猫オーナーの熱い気持ちが研究をバックアップ!

猫の寿命が30歳まで伸びる!?【第2回】猫オーナーの熱い気持ちが研究をバックアップ!
猫の寿命が30歳まで伸びる!そんな夢のような話が、腎臓病を治す薬の開発によって実現しようとしています。

実用化間近の猫の腎臓病治療薬について全3回でお伝えしています。

第2回では、開発中に直面したコロナ禍による資金難と、それを救ったたくさんの猫オーナーたちの熱い気持ちについて、猫の腎臓病薬を開発中の宮崎徹先生に、引き続きお話を伺っていきます。

▼第1回はこちら
猫の寿命が30歳まで伸びる!?【第1回】腎臓病治療薬の実用化間近!開発者 宮崎先生インタビュー 猫の寿命が30歳まで伸びる!?【第1回】腎臓病治療薬の実用化間近!開発者 宮崎先生インタビュー

インタビュー・記事の監修:宮崎徹 先生
1986年東京大学医学部医学科卒、医学部附属病院第三内科に入局。熊本大学大学院を経て、92年よりパスツール大学(仏ストラスブール)研究員、95年よりバーゼル免疫学研究所(スイス)主任研究員、2000年よりテキサス大学(米ダラス)にて免疫学准教授、06年より22年まで東京大学大学院医学系研究科教授を歴任。
22年4月より一般社団法人AIM医学研究所代表理事・所長。1999年に発見した血中タンパク質AIMを、腎臓病を始めとする多くの難治疾患に対する新しい治療法として創薬を推進している。また、猫では先天的にAIMが機能不全であることが腎臓病が多発する原因であることも見出し、AIM動物薬も開発中である一方、猫のAIMを活性化する方法を開発し、ペットフードに応用している。
一般社団法人AIM医学研究所 代表理事・所長)

コロナ禍による資金難を救った!猫オーナーによる多額の寄付

AIMを発見した後、猫のための腎臓病治療薬の開発を進めていた宮崎先生ですが、開発は大きな壁にぶつかることになります。

その原因は、新型コロナウイルス。

covid19

猫用の薬の開発は企業からの資金提供で進めていましたが、コロナ禍による経済的な理由から資金が打ち切られ、研究を中断せざるを得なくなってしまったのです。

──1999年に発見したAIMの研究を、2006年からは東京大学で行っていた宮崎先生ですが、研究資金がコロナ禍により途絶えてしまったそうですね。

宮崎徹先生(以下、宮崎):猫薬の開発を進めていた途中でコロナ禍に見舞われ、日本の経済が一気に冷え込んだこともあり、開発資金をそれまでのように上手く集めることが出来ず、猫薬の開発を中断せざるを得ない状況になりました。

──それがちょうど著書『猫が30歳まで生きる日』の発売と同じくらいのタイミングだったんですね(2021/8/4発売)。

猫が30歳まで生きる日

──そのプロモーションの一環でインタビューを受け、資金不足になったことをお話しされた。

宮崎:そのことがSNSで配信されたところ、一気に拡散され、何千何万という猫好きの方々が、自主的に寄付を下さったのです。配信された日一日で既に何千件もの寄付がありました。私はそもそも一般の方からの寄付を募集しておりませんでしたから、膨大な数の寄付申し込みが東大本部に寄せられ、事務はパニックになったとのことでした。

──どうにか研究を続けてほしいというたくさんの愛猫家たちが、研究資金を寄付する方法を自発的に探し、当時先生が所属していた東京大学の「東京大学基金」という寄付を受け付けるサイトを発見したんですね。

通常、寄付を集めている研究はここでそれぞれプロジェクトとして窓口を設けているのですが、宮崎先生は一般の方から寄付を受けるつもりがなかったのでプロジェクト自体がありませんでした。

そこで「その他の研究」のプロジェクト宛てに「宮崎先生の猫薬の開発資金として」と書いて寄付をしてくださったそうです。

──毎秒のように寄付が入ってきて、2億円超が集まったそうですね。

宮崎:驚きと感謝と責任を同時に感じました。そして、私たちの研究はこれほど多くの人に期待され評価されていたのかと初めて実感し、とても嬉しかったです。

──たくさんの猫オーナーの熱い気持ちが研究を救ったんですね。

15歳までの猫の約4割が、15歳以上の猫の約8割が患っているといわれる慢性腎臓病(※)。これまで悪化のスピードを遅らせるしか対処方法のなかったこの病気が治る日を迎えることは、大多数の猫オーナーの悲願ともいえます。

猫と猫オーナーのサポート

※参考:Marino, Christina L., et al. “Prevalence and classification of chronic kidney disease in cats randomly selected from four age groups and in cats recruited for degenerative joint disease studies.” Journal of feline medicine and surgery 16.6 (2014): 465-472.

試験投与でも良い結果を得て、実用化もいよいよ間近に!

たくさんの寄付が寄せられた頃から2年が経過しました。宮崎先生は、2022年3月に東京大学を退官し、4月から「一般社団法人AIM医学研究所(The Institute for AIM Medicine, 略称IAM)」を設立されました。
IAMは、

AIMに関する研究を総合的かつ集中的に推進し、その成果の実用化を加速する
引用元:一般社団法人AIM医学研究所

ことを目的として設立された研究所です。

研究所イメージ

──研究の進捗はいかがですか?

宮崎:皆様の強い応援に支えられて研究開発は再開し、とても速いスピードで治験薬は完成しました。またその効果も確認でき、その結果は現在論文投稿中です。

──期待通りの効果が得られたんですね!

宮崎先生は2022年4月より株式会社エルムスユナイテッド動物病院グループ(以下:EUG)とAIMの学術的共同研究を進め、特定の腎臓病ステージの猫にAIM試験投与を続けてきました。

EUGは、CTやMRIなどの高度医療を提供する「エルムス動物医療センター」2軒を軸として、全国に6つの地域密着型の動物病院を展開している動物病院グループ。

そのグループ病院と協力して、同意を得られた慢性腎臓病治療中の猫へAIM薬を投与し、6ヶ月間効果を観察するという治験を実施。目標とする症例数に達し、期待通りの効果が得られた(※)ということです。

治験を受ける猫

※参照:AIMの学術的共同研究の症例数達成のご報告とご協力へのお礼

──2022年に創設された一般社団法人AIM医学研究所では、発足後5年間での達成目標のひとつに「動物用AIM医薬品(ネコ用AIM薬)の承認・上市」を掲げています。2027年までに実用化される可能性があるということですね。

宮崎:今後、治験、承認申請を経て認可・上市となりますが、最大限のスピード感を持ってこのプロセスを進めたいと思います。独立してAIM医学研究所を発足させたのもそれが一番の理由です。

──ここから実用化までにはまだやらなければいけないことがたくさんあるんですね。
けれども先生が猫のAIM研究を始められたのが2013年頃。それからまだ10年しか経っていないのに、すでに試験投与で良い結果が出ているというところからも、猫たちのために猛スピードで進めてくださっていることが伝わってきます。

宮崎先生は2023年8月22日に猫の治療薬を世に出すための会社「IAM CAT(アイアム キャット)」を発足されました。

いよいよ猫の腎臓病を治すことのできる未来が、間近に迫ってきています!
治療薬の完成が待ち遠しいですね。

子猫とドライフード

なお第1回で紹介したように、猫の体内に元々あるAIMをIgMから切り離し活性化させる成分を配合したドライキャットフードが、すでに発売しています。
こちらは療法食ではなく、あくまでAIMの活性化をサポートするキャットフード。腎臓病発症前の健康なうちに取り入れられると良いですね。

宮崎先生のインタビューは全3回にわたってお送りしています。
第3回では、宮崎先生がAIMの研究を発展させて目指している未来について伺いました。
またAIMに関して私たちにできることをまとめています。

※第3回は11月2日(木)公開予定!お楽しみに♪

宮崎徹先生の著書『猫が30歳まで生きる日』好評発売中!
先生の研究の歴史やAIMの発見と働きの解明、猫の腎臓病薬開発のことなどが、分かりやすく解説されています。
とても読みやすい書籍なので、ぜひチェックしてください♪

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